
第2章は主に ICNCP (国際栽培植物命名規約)について解説されています。
品種名をつける際には ICNCP という取り決めがあります。
たまにそういったものは無いと勘違いしている人もいますが、ちゃんとあります。
ルールの存在の有無と守られているかどうかというのは勘違いしてはいけない部分です。
ICNCP は ICBN (国際植物命名規約:学名のヤツ)をベースに作られているもので、シッカリしてます。
条文で禁止事項やら何やらが書いてあるんですが、正直あまり取っ付き易い感じでもないです。
公式野球規則みたいな感じです。
なので、品種名総覧にはチャート式のチェックリストが掲載されています。
チャートに沿ってチェックすればその名前が適格(規約違反していない)かが分かるようになっているというものです。
「自分の作品に品種名を付けたい」という方には是非活用して欲しいです。
エケベリアや他の植物でも十二分に応用出来るようになっています。
訂正が必要になってしまうような名前で販売・流通させるということは可能な限り減らしていただきたいです。
また、品種名総覧が画期的なのは【日本語】の事情も考慮してあるという点です。
ICNCP は英語圏やヨーロッパ、つまり表音ラテン文字を前提に練られているので、漢字/かな/カナ/ローマ字が入り乱れる日本語には対応しきれない部分が少なからずあり、その辺りの問題も解決出来るようにアレンジしてあります。
序文を寄稿された池谷氏(ICNCP の委員もされているそうです)によると、なんとこういう試みは日本は初なようで、もう多肉とか花卉とか問わず園芸業界者には興味深い内容になっていること間違いナシです。
この序文が簡潔にしてなかなかの名文なので是非呼んでいただきたいところです。
というワケで、品種名総覧ではすべての品種名に日本語表記とローマ字表記の両方掲載されています。
「カナで表記されると元のスペルがワカラン」という人も「なんて読むのかワカラナイ」という人も満足です。
‘御津姫’ とか難読な名前もバッチリだ!
◆ 『発表』について
ここでいう発表というのは「出版物に品種名を掲載する(判別文を伴って)」という意味を持つ用語です。
これは多肉業界では軽視されがちですが、とても大事な作業です。
International Crassulaceae Network
http://crassulaceae.ch/
ベンケイソウ科は主に欧州で同様の品種整理が行われています。
100年以上、ものに拠っては200年近く前に出版された書物からカタログのようなものまで精査されていて驚嘆しました。
これはその名前が何年経とうと保護されているということです。
しかし近年に日本で作出されたと思われる品種はその名前がキチンと伝わっておらず、異名扱いになっていることが増えています。
輸出入の際の連携等が上手くいっていないことが大きな理由だとは思いますが、発表が「あやふや」なままになっているのも理由のひとつでしょう。
(なぜ「あやふや」なのかを説明するのは時間が掛かるんですが、根本的にはハオルシアと似たようなことです。)
つまり『発表』するということは「その品種名を保護する」という作業でもあるということです。
大半のコレクターが共有している「作出者や命名者が付けたオリジナルの名前は尊重するべき」という考え方に沿うようにする為にも必要な作業であるということが理解出来ると思います。
大げさな話でも何でもなく、ハオルシアに関しては品種名総覧の出版発表によって未来の世代へ「愛好者たちが生み出した品種という作品の名前」を保護し、伝えていくことになるでしょう。
事実ハオルシアでも起こった危機で、そのあたりの攻防は「あとがき」でも詳しく触れられています。
ネットを介した流通の拡大で植物の海を跨いだ行き来が増え、愛好者が情報を得られる環境が整うとこうした問題はもっと増えてきます。
絵画であろうと音楽であろうと作品を世に出す為には分野それぞれにフォーマット、マナー、分別があり、それが園芸品種については「品種名の適格性(基準違反で無いかどうか)と発表」ということだと思います。
個人的には「発表が有効なのはペーパーメディアのみ」というのも今の時代に馴染まないのも確かだと思います。
愛好者団体で書式を決めて PDF あたりで作出者に提出してもらってそれをネット上で管理する、とかでも良いかなと思いますね。
Google drive とかもありますし。
私は品種名や商品名の類いでも命名者に関しては公表されるべきではないかと思います。
どうも名前を使い出すための責任関係があやふやにするための理屈が多過ぎたり、うやむやになるようにする構造が出来ているような気がします。
品種名総覧は日本の園芸業界、特に多肉業界のマイルストーンとして重要な資料だと思います。
これを機にベンケイソウ科や他のジャンルの植物でも品種の有り方を考える良いきっかけとして戴きたいです。
こういった資料は作って「ハイ終わり」というものではなく運用・活用されてこそ真価を発揮するものです。
チャートを参考に品種名を考案したり、ラベルを整理に役立てて欲しいですね。
特に販売したりする方には顧客サービスの一環くらいの感じで。
今でも十分凄まじい仕上がりになっていますが、海外の品種名や最近発表された品種の追加やらでアップデートも計画されているそうです。
これも重要な運用の一環です。
「訂正なんかも積極的に行いたい」とのことで、間違いとかを見つけたらメールや掲示板、最近始まったツイッターとかで伝えるとありがたいそうです。
間違い探しが好きな私も一通り目を通してみて、この手の出版物としては流石相当ミスは少ないと感じましたが、それでも気づいた一点。
【レンズ】のスペルが【Lenz】になっています。
正しいスペルは 【Lens】 です。
(Lenz は基本的に人名。ポルトガル語とかドイツ語のスペルがナンタラとかいう類いではないです。)
この件についてはメールで問い合わせてみたところ、「どこかでそうなっていたのをそのまま採録して綴りを確認しなかったことによるミスでした」とのことでした。
確かに個人的にも何度も見たことあるし、検索してみてもかなり引っかかるんで日本の多肉業界で思い込まれがちな間違いなんでしょうかね。
そんなワケで 【Lenz】 は間違いなので 【Lens】 と脳内補完してください。
(外来語でも Renzu みたいにはしません。)
あと最近思ったのは基準表の「常用漢字以外禁止」の部分でしょうか。
主旨としては「変換出来なかったり日本語ではそうそう使われないような謎漢字はやめようね」ということだと思います。
「草なぎ剛」とか「イ・スンヨプ / 李承*(*は火へんに華)」みたいなことを防止するための措置だと思います。
“白瀧(はくりゅう)” の『瀧』がNG判定されていますが人名用漢字として使えますし、日常でも十分使われる漢字だと思うのでこの判定には疑問があります。
(個人的には「白瀧」の読みは一般的には「しらたき」だと思いますが出典のHaworthia Handbook のほうに「はくりゅう」と読み仮名がふってあるのかな?‘白竜’とで 「‘Hakuryū’ かぶり」なのはもちろんアウトだと思います。)
常用漢字はかなり少ないです。
他にも‘花篝’(‘Hanakagari’) の『篝』も常用漢字ではなかったりしますが、NG判定はされていません。
他にも『縞』『櫛』『鳳』『晃』『鷺』『薔薇』・・・とかいっぱい。
生き物系はだいたい表外漢字ですね。
表外漢字一覧(かなり重いです)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A1%A8%E5%A4%96%E6%BC%A2%E5%AD%97%E5%AD%97%E4%BD%93%E8%A1%A8%E3%81%AE%E6%BC%A2%E5%AD%97%E4%B8%80%E8%A6%A7
使用される漢字に制限を加えるための条文としては「“常用漢字”以外禁止」だと不都合が多くなるので見直しが必要かなと思います。
機種依存文字禁止・・・でもダメだなあ。
漢字の分類は難しいっすね。
あと禁止記号の例に『&(アンパサンド)』を明示、とかですかね。
まあそんなワケで、色々間違いやら発見やら改善アイデアやらが浮かんだ方はハオルシア協会に発信してみてください。
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